秋の幽霊

田舎が好きです。pithecantroupusは”いなかのネズミ”です。

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olympus e-m5mk3 75mm

きのうのレトロカメラの背景にした写真とカメラ写真ののこりもこっそりと。
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olympus e-m5mk3 135mm

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 柊サナカ「人生写真館の奇跡」に出てくるのはこの世にいない人たちです。あの世にも行っていない人たちです。あの世とこの世の境界にある写真館を舞台に、死者たちの過去の一場面を写真に撮ってきて「走馬灯」をつくります。写真館の主はカメラに詳しいようですが、写真は撮らずに走馬灯をつくるのが仕事です。完成した走馬灯が一回転すると、写真館の客たちはあの世に行くのです。

 最初の客は保育園の園長をしていたおばあさん、92歳。過去にさかのぼって撮ったのは、保育園を始めたときに校舎替りに用意した廃車のバスをみんなで引っ張ってきて備えつけた日の写真でした。使ったのがキヤノンオートボーイです。
pithecantroupusの違和感は、オートボーイがブラックボディであることとフィルム自動巻上げの音でした。おばあさんとはいえ女性ですから、もっと可愛らしくて軽くて操作が簡単なオリンパスペンEEがいいと思いました。おばあさんは戦後の何もないところから保育園を始め、運営して、ずっと子供たちを育んできたしっかり者です。案外、ドイツ製のビテッサのような精密さやこだわりも似合っていると感じました。

 二人目はヤクザ。隠れみのに経営しているリサイクルショップの従業員はヤクザの子分とちょっと変な機械修理の“天才”です。過去にさかのぼって撮ったのは、かれが柄にもなく良いことをした一日の記念写真です。使ったのはライカⅡf、エルマーの2.8付きです。
かれがリサイクルショップで聞きかじった知識で選んだカメラだそうですが、ヤクザに繊細なライカは似合わないと感じました。いざ殴り合いをするときにレンガ替りに使えそうなヤシカエレクトロ35か、f1.4のレンズが馬鹿でかいヤシカリンクスが体躯もりっぱな彼に似合うと思ったのです。

 三人目は5つ6つの歳のこども。早とちりのpithecantroupusはずっと後まで男の子だと思っていましたが少女でした。使うカメラは写真館の主が選んだニコンF3、パンケーキのGNニッコール。カメラを選んだのは大人ですがシャッターを押すのは幼い少女です。もっと軽いカメラもあるでしょう、というのがpithecantroupusの第一印象でした。ニコンに妥協するにしてもEMなら軽くて可愛らしさもありますし、ブラックボディが嫌ならFGでもいい。一見おもちゃのようで、ペンダントのように首から下げられるフジカminiならぴったりするような気がしました。

 なつかしいカメラが出てくるので読み始めましたが、この世の人間でない人たちがでてくることも興味を持った理由です。村上春樹「ハナレイ・ベイ」を最近読んだ影響かもしれません。
いま、湖底に沈んだバスに閉じ込められたまま亡くなった人たちが、縁のあった人たちに会いに来るという赤川次郎「午前0時の忘れもの」を読んでいます。

 佐久良氏立つて祝意開陳BGM「秋の幽霊」不意に消えたり   (塚本邦雄:黄金律)

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