友人の思い出

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E-P3 M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R

◆オリンパスペン (※ これはフィクションです)
ちょっと見せて、と彼のカメラを手にとった。
軽くてひ弱な感じのカメラだった。100分の1、f8、2mにセットし、彼をファインダーに入れてシャッターを切った。チィッと小気味よい音がした。とても押しやすいシャッターボタンだった。
力をこめればつぶれるのではないかと思ったカメラも、意外にしっかりして、板金の張り合わせでなくダイキャストの手応えがあった。持ち主の彼と同じだった。背が低くて、やせていて、なのにどこか大人びている。
かれは写真に頓着しない。フィルムの箱に書かれたお天気マークと絞り、シャッタースピードの組み合わせを忠実に守って写真を撮っていた。しかし、彼が撮る写真はいつも私にショックを与えた。
外部露出計をつけた一眼レフでとった私の写真がまるでつまらないのに、彼のオリンパスペンでとった写真は、月刊誌の月例写真や、ときにはプロの口絵写真のように見えた。
わたしを嫉妬させた才能に彼はまったく気づきもせずに、サボテンを集めては手入れをしていた。高校を卒業してすぐ就職し、そのころから盆栽を趣味にして、会えば木や花の話ばかりした。しばらくして、ある人から、彼の盆栽の腕はプロ並みだと聞いた。彼が亡くなったのはその直後だったと思う。
それは秋のよく晴れた日だった。斎場に集まった同窓生たちがそれぞれの思い出話をした。彼が花屋になりたかったという事をそのとき知った。写真も好きだったが妹や弟がいてはいいカメラも買えないからと諦めていたという事も。
オリンパスペンのファインダー越しの彼は、照れたように、恥ずかしそうに、無理に笑顔を作っていた。

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