肉(しし)ふとり、垣爛(ただ)れ、死後に聽く

塚本邦雄
桔梗濃し神を選ばば七人のユダを宥(ゆる)して肉(しし)ふとりたる  (天變の書)
遠縁(とほえん)に戰犯一人ありしこと白萩の垣爛(ただ)れゐしこと   (歌人)
バッハ管弦組曲二番ロ短調死後にし聽かばふたたび死なむ   (約翰傅偽書)

京都西陣、三上家路地。
ようやく、沼克己さんの『遊遊爺的なボクの時間』にあった路地に到着。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8

塚本邦雄『黄昏楽 考幻学的与謝野蕪村ノート ―』(短歌誌「喜望峰」1967年12月)より引用。
 蕪村のライフ・ワークの中から『晋我追悼曲』一篇をのみ採り、他をかへりみぬのは私の独断であり、妄執に似たえらびに過ぎぬ。だが私はこのえらびを以て己が審美眼を験してきたし、この後もうたがはないだらう。即ち、たとへば晶子ならば『みだれ髪』一巻、暮鳥の全作品からはあとにも先にも「囈語」ただ一章、静雄については『わがひとに与ふる哀歌』のみ、吉岡実ならば『僧侶』と、私の選択は一見刻薄をきはめる。・・・・

先日のブログ記事で引用した吉岡実「僧侶」書評にも同じような記述があったので、暮鳥『囈語(げいご)』が気になりました。
国立国会図書館のライブラリーで原本が見れましたし、青空文庫の山村暮鳥「聖三稜玻璃」(せいさんりょうはり)でも読めました。

囈語   【げいご】

 竊盗金魚       【せっとうきんぎょ】
 強盗喇叭       【ごうとうらっぱ】
 恐喝胡弓       【きょうかつこきゅう】
 賭博ねこ       【とばくねこ】
 詐欺更紗       【さぎさらさ】
 涜職天鵞絨(びらうど)   【とくしょくびろうど】
 姦淫林檎       【かんいんりんご】
 傷害雲雀(ひばり)   【しょうがいひばり】
 殺人ちゆりつぷ       【さつじんちゅうりっぷ】
 墮胎陰影       【だたいいんえい】
 騷擾ゆき       【そうじょうゆき】
 放火まるめろ   【ほうかまるめろ】
 誘拐かすてえら。   【ゆうかいかすてえら。】

これで100年前(1915年 大正4年)の作品だそうです。

愕然と思ひ

塚本邦雄
愕然と思ひおよべばシンデレラ深夜の馬車は鳳輦に似つ  (黄金律)
秋の霞甍をひたす晝われや人とかなしみをわかたざらむ   ( 〃 )
短日のそのみじかさを嘉(よみ)しつつ源氏「野分」の巻飛ばし讀み   ( 〃 )

京都御所周辺で。かけまくも、かしこきあたりをうろうろとして。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOKTON 25mm F0.95
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

われにまさるわれ

塚本邦雄
われにまさるわれの刺客はあらざるを今朝桔梗(きちかう)のするどき露   (魔王)
レスラーがグレコ・ロマンのほろにがき對位法 月、枇杷色に満つ   (感幻樂)

京都プラント。ほとぎす、さるすべり、かえで、ききょう。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

音もなく

塚本邦雄
音もなく牡蠣啖(くら)ひゐる家族らのたれか罪犯さず生終へむ   (日本人靈歌)
秋分の蚤の市にて見出でける銀の匙血をぬぐひたる痕   (黄金律)

京都西陣。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

こころぞさわぐ

塚本邦雄
秋冷のこころぞさわぐこの世よりあらざらむ世への時の急流  (黄金律)
ゆふべは秋の西方昏し飛ぶ鳥の明日も屋上を奔れ鳶職   ( 〃 )
扉臙脂に塗りかへたれば秋風の次におとづるるものがおそろし   ( 〃 )

京都西陣。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8

きょうは久しぶりの撮影行。目的は京都西陣の路地ですが、ついうろうろとして、あちらこちらで足が止まります。でも、空白期間が長かったせいか、撮影枚数は伸びず、いつもの半分のショット數でした。脳が硬直した思考になっています。
目的地は、沼克己さんのブログ『遊遊爺的なボクの時間』の2015.09.06 の記事にある路地ですが、まだ着きません。

眞紅(まくれなゐ)の眞實

塚本邦雄
われもこの國も不安に狎れむとし鶏頭の紅く死せる鶏冠   (日本人靈歌)
防衛廳まへも通りて唐がらし賣りに來る眞紅(まくれなゐ)の眞實   ( 〃 )
不思議なる平和がつづきゐて檻の石胎の鶴、多産の駝鳥   ( 〃 )

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このところ写真を撮れていないので、今日で5日つづきの過去の遺物でおちゃを濁しているけれど、8年も9年も前の写真からちっとも進歩していないことを再確認して、ますます写真が撮れなくなってしまいそうです。昨日は奈良橿原のホテイアオイだったけれど今日はご近所のお茶畑。

脫出したし

塚本邦雄
姦淫は母もつことにはじまりて酢の底となる皿の繪の鳥   (綠色研究)
抒情詩もて母鎭めむにあたらしき鋸の齒のかたみに反(そむ)く   (水銀傳説)
日本脫出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも   (日本人靈歌)

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ZUIKO ED 8mm F3.5 Fisheye
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ZUIKO ED 8mm F3.5 Fisheye
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ZUIKO ED 8mm F3.5 Fisheye

死ぬことは恐ろしいです。塚本邦雄が書いた文に、次のようにありました。

・・・・「僧侶」一篇は紛れもなくこの寺院の司祭であり、現代詩の最も危険な傑作である。私は歌集『魚藍』から最新作「立体」までを熟読してなお、この傲慢な選択に従おうと思う。暮鳥の全作品中「囈語」(げいご)ただ一篇を探り、静雄のライフワークから「わがひとに与ふる哀歌」以外を清去するより、更に苦痛を件うえらびではあるが。
詩人は絶対値に近い一篇の傑作の為に死んでもよいのだ。・・・・なまじ成仏などすることのない極重悪人の典型としての、禁断の新書を成されることを切望するものである。
日本読書新聞 1967年11月6日「修羅と悪徳との凶変の証~『吉岡実詩集』について」

生涯に代表作と呼べる作を、死ねば、もう付け加えることは不可能。
中平卓馬に「来たるべき言葉のために」があるといっても、そのなかの写真の一枚も思い浮かびません。細江英公のとった三島由紀夫や横須賀功光の資生堂ポスターや森山大道の犬はすぐに脳裏に浮かぶけど、中平卓馬にそんな写真がありません。もとより、彼は「代表作」など望んでもいないのでしょうが、写真家という肩書で印象に残る写真がないのは、やはり残念な気がします。

われに二人の神

塚本邦雄
ちちとははわれに二人の神います透きとほるかに尾花夕映(をばなゆふばえ) (新歌枕東西百景 埼玉県秩父郡両神村薄)
梁(やな)出づる魚、笛の胴、琵琶の首、秋はかなしき音に鳴くものを ( 〃  福島県河沼郡柳津町琵琶首)
ひれふるは愛のあかしぞ夜もすがら火の星嶺にまたたけ ( 〃  佐賀県東松浦郡厳木町星領)

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溶けゆくダリア

塚本邦雄
長子偏愛されをり暑き庭園の地(つち)ふかく根の溶けゆくダリア  (装飾樂句)
天國荘養老院に今年死者皆無 牛肉いろの煙突  ( 〃 )
胃を病みて子と鞦韆(しうせん)に遊びをり<平和なれども地を嗣がぬもの>  ( 〃 )

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還り來しものも忘れられ

塚本邦雄
アヴェ・マリアの忘れゐし節(ふし)おもひ出づ死魚浮かびたる午(ひる)の干潟に  (装飾樂句)
公園のシーソー赤く塗られたり 還り來しものも忘れられて死す  ( 〃 )
聖餐に列すといへど合掌の肘はりてひとの祈りを侵す  ( 〃 )

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Pentax FA soft 28mmF2.8
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Pentax FA soft 28mmF2.8
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Pentax FA soft 28mmF2.8

人に渇

塚本邦雄
白く曇れる滅紫(めつし)の葡萄とほざけよこの眞晝われは人に渇き  (蒼鬱境)
萬象の中なる僕(しもべ)わがために菊靑きさきの生(よ)をたまふべし (靑き菊の主題)

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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

しるしの下に

塚本邦雄
赤きアポロのしるしの下に若者は給油せり疼(いた)みもてそれを享く  (綠色研究)
草の上の晝餉(ひるげ)終りて背合せにはらから眠る靑き「ファミリア」 (マツダの広告より)
鮮紅のダリアのあたり君がゆかずとも戰争ははじまつてゐる  (黄金律)

ギアとかダイヤルとかが好き。トヨタ産業技術記念館。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

縦横無尽とか

塚本邦雄
秋ふかきものの氣配やわが母のかなしみしことを吾(あ)もかなしまむ  (薄明母音)
母よ口あきたまへすずしくなまぐさくヴァチカン宮殿の厨見ゆ  (綠色研究)
曼珠沙華かなしみは縦横無盡  (斷絃のための七十句)

ご近所。
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NOKTON 25mm F0.95
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NOKTON 25mm F0.95
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NOKTON 25mm F0.95

あしもとに秋

塚本邦雄
秋風が鬱の顱頂をかすめたり「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ」  (黄金律)
眞處女(まをとめ)の息吹みだれて金盥(かながらひ)ころがれり新秋のひびきあり  ( 〃 )
邯鄲の屍ぞころがれるあしもとに秋風のゆくへつきとめたり  ( 〃 )

なお途中下車の鈴鹿市白子。
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ・・・」の歌には、『「アレバ」は「アラバ」の誤りなれば』と詞書がついています。
「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」は教育勅語の一節です。

過ぎゆく

塚本邦雄
おそらくはつひに視ざらむみづからの骨ありて「涙骨(オス・ラクリマーレ)」  (約翰傅偽書)
つひにわれも母のみの子にあらぬとふことわりや夜半を過ぎゆく蹄  (薄明母音)
母が疼み子吾にひびけこれの世に一筋の血もて繋がれにけり  ( 〃 )

なお途中下車。
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M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm
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M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm
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M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm

季(とき)過ぎて

塚本邦雄
離住(かれず)みに經たるいくとせ季(とき)過ぎて紫苑(しをん)咲く日を母に對(むか)ひつ  (薄明母音)
ゆすらうめ夢の檻はや夏ふけぬ一粒ののぞみわれにのこせや  (新月祭)

いつも仕事へ通う道を今日は途中下車して。
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

見るともなく見

塚本邦雄
老醫師の霞める目もて空蟬のごといたはらる病後の少女  (驟雨修辭学)
われより死うばへる醫師よ浴槽に脚を岬のごとく並べつ  (綠色研究)
冬の石榴甘し見るともなく見しは醫師が醫師刺すイタリア映畫  (天變の書)

散歩の途中で。
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

たましひの君ら

塚本邦雄
たたかひに果てたる若きたましひの君ら白鳥今歸り來よ (新歌枕東西百景 香川県大川郡白鳥町歸來)
空ゆくはやまとたけるか鳥じものかろやかにしていと白きかな ( 〃  岐阜県郡上郡白鳥町石徹白)
大丈夫あと絕つたれば群靑のそらみつやまとやまひあつし   (魔王)

散歩の途中で。
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

曼珠沙華の

塚本邦雄
戰後戰後戰後、戰前また戰前、をののきて風中(かざなか)の曼珠沙華  (魔王)
われをおいてわれを弑(しい)するものあるはいづこぞ 曼珠沙華の火の手  (不變律)

今秋初めてのヒガンバナに出会いました。
気分転換にご近所を30分ほど散歩していて見つけました。
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NOKTON 25mm F0.95
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NOKTON 25mm F0.95
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NOKTON 25mm F0.95

こころ千々(ちぢ)に

塚本邦雄
秋風の心をうつす鏡石この清ら石まだ戀知らず (新歌枕東西百景 福島県岩瀬郡鏡石町久來石)
隈(くま)もなく秋風到りまひるさえ戀にやつれし露の身ねむる ( 〃  愛媛県上浮穴郡久万町露峰)
妹は牛の背に搖れわがこころ千々(ちぢ)にみだるる秋の夕暮 ( 〃  北海道雨竜郡妹背牛町千秋)

はたらく人。トヨタ産業技術記念館。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

『こころ千々(ちぢ)に』という節に与謝蕪村を感じます。
「君あしたに去(い)ぬゆふべのこゝろ千々(ちぢ)に
 何ぞはるかなる・・・・・」
で始まる有名な一編です。
塚本邦雄は、僧侶(吉岡実)、わがひとに与ふる哀歌(伊東静雄)、みだれ髪(与謝野晶子)などと並べて、蕪村の「晋我追悼曲」をいいます。
「一七四五年、蕪村三十歳当時の作になるこの和詩挽歌は、今日なほ十分に新鮮である。藤村以降の新体詩にもまして「新体」であることも驚くべきだが、第一に新体詩のもつ、七五調の甘美極まる抒情、浪漫の小うるささも臭さも一抹だに無いのが清々しい。友の死に遭つて悲哭する蕪村の正述心緒の詩・・・・」(『黄昏樂』)

連なりつ

塚本邦雄
夫婦と犬つめたき葡萄かこみをり あやふくボルジァ家に連なりつ  (綠色研究)
葡萄充ちてふくるる箱を百本の釘もてどざすかくて盲(めし)ひむ  ( 〃 )
黑葡萄置き惡友の塋翳る*その底のテルマエ・ディ・カラカラ  ( 〃 )

レンガ好き。トヨタ産業技術記念館。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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TOKINA Reflex 300mm F6.3
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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TOKINA Reflex 300mm F6.3

ちまた行く

塚本邦雄
玉蟲買ひて吾子(あこ)は晩夏のちまた行くわれにも一つ<死>を買ひ戻れ  (天變の書)
冷房の中にかすかに熱風がかよひをり貶(おとし)められつつあるか  (装飾樂句)

トヨタ産業技術記念館へもどって。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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SUMMILUX 15mm F1.7

もう少し、美術手帖(昭和43年) 対談「いま写真家であること」(高梨、中平、横須賀、中原佑介)より
中平
 ぼくはぜんぜんそういうファッションをやらないんですけれども、ぼくの感じでは、高梨さんも横須賀さんも、それ(※ 「アウラ」 引用者注)が珍しく無い人だっていう気がしますけれどもね。たとえばドロシー・ラングなんていますね。女の人が子どもかかえてこうやっているのをパッととっているんだけれども、そのときたとえばこの人はいくつぐらいで、子どもが何人いて、たぶんものすごく不幸な目に会っているんだろうと予想させて、感動させる写真ですね。そういうのはぼくらにはなくなっちゃった。被写体の人生にはいっていって、こうだろう、こうだろうというような形でのものはなくなってしまったと思いますね。前田美波里にはいろうとしても、はいれないという気がしますね。前田さんはこういうふうに生まれて、幸福で、たぶんこうでしょうと、その気持はよくわかりますと、そういう形では介入できない。そういう意味では、やはり鉱物みたいな感じだものね。高梨さんのファッションもそうだな。そこにもうアクラはない。
(中略)
構須賀
 いま全体になくなっているんじゃないですか。
高梨
 それが、パターンとしてそれがないというのが新しいと思い込んでる傾向もあるね。人間と素直にかかわりをもたないで、ただ流行みたいに無表情に写す。だからはじめからスッコ抜けているわけ。
(中略)
中原
 細江英公さんなんかの写真は,アウラというのを感じますね。
中平
 ああ、それはまちがいなくそうですね。 もう、べんべんたるものですね。
高梨
 ぼくは仕事でもって三島由紀夫氏をとったんですよ。そうしたら編集者が見て、どうしてこんなそっけなくとれるのというんですよ。つまりオマージュなんですね、細江さんなんかのは。それでつまりアウラなわけですよね。ぼくのは、そこらへんのおじさんをとるのと同じにしのび込むし、そういうことなんですよ。そのちがいじゃないかと思う。
中平
 あなたの場合は、自分以外は敵というみたいなもんだね。だけどなんとなく矮小に矮小にして、人間というのは全部なくしちゃうね 。
中原
 カメラ機関銃説。
中平
 機関銃は視姦を乗り越えて……(笑)
中原
 これは東松さんに絶対読ませなければいけないね(笑)
中平
 そうはいうものの、そうとうなものだからね、あのおっさんは。俺はかなわない(笑)

こころさわぎ、Y字路で剽

塚本邦雄
子の惡意徐々にそだちてかぎろひの白露の珠徑約二粍  (黄金律)
遠き訃にこころさわぎて白珠の秋百日の果て近きかな  ( 〃 )
秋夜モノクロ映畫幻滅ハンバーグステーキ啖ひゐるバーグマン  ( 〃 )

横尾忠則を かすめ取ってトヨタ産業技術記念館へ行く途上のY字路。
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ZUIKO ED 8mm F3.5 Fisheye

トヨタ産業技術記念館が続いたので、「Y字路」の剽窃で。
塚本邦雄『「庭の千草」低く唱ひて唇紅き警官過ぎつ或は剽盗』(驟雨修辭学)に出あったとき直ぐに浮かんだのは映画の「ビルマの竪琴」(1956年)でした。剽盗は、おどして奪い取る人という意味だそうです。

白露にて

塚本邦雄
白露(しらつゆ)にてのひらおもし戰陣訓ひろひよみする不良少年  (歌人)
みちのくへ三日旅して白露にあけぼのいろの母がくるぶし  ( 〃 )
母を送り來しか白露の驛頭に「手鉤無用」の凾ころがるは  ( 〃 )

トヨタ産業技術記念館。
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ED 8mm F3.5 Fisheye
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7

昨日のつづけてもう少し、美術手帖(昭和43年) 対談「いま写真家であること」(高梨、中平、横須賀、中原佑介)より
中平
 東松照明さんなんかぼくの写真を見て、ムードミュージックといいますね。それはそうとう馬鹿にしようと思っているからいうんでしょうけれどもね。これは絶対に速記に入れておいてくださいね(笑)。
高梨
 ぼくはチョロスナといわれますね。チョロッとスナップしたという。視姦の先生には(笑)。

ほのかにははつかにににて

塚本邦雄
月光の中より垂れて鞦韆(しうせん)がわが前にあり 死後もあらむ  (驟雨修辭学)
あけぼのの夢の出口を彩りてはつかに靑銅(あをがね)の香の秋風   (約翰傅偽書)
うつせみのこれぞ寒蟬(かなかな)、赤裸なるたましひ經帷巾(きやうかたびら)をまとひ  (詩魂玲瓏)

トヨタ産業技術記念館。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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Zuiko ED 8mm F3.5 Fisheye

美術手帖(昭和43年12月号増刊) 対談「いま写真家であること」(高梨豊、中平卓馬、横須賀功光、(司会)中原佑介)より
中平 ぼくは東松照明さんとたいへん関係があるんですけれども、ほんとはぼくは映画をやりたくてしょうがなかったんです。けれども,映画会社にはいるというのもつまらないと思っていたんです。それでたまたま「現代の眼」という雑誌にはいって、映画欄を担当したんです。前々から東松照明、東松照明という話を聞いていて、・・・映画の批評を東松さんに書かせたらどうだろうかと考えまして、それて頼んだんですけれどもね。それで映画を見に行ったりなんかしているうちに、写真をかなり意識的に見るようになって、それでズルズルと写真のほうにはいった。そういう感じなんです。
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中平卓馬

ふかく納め

塚本邦雄
ゆりかごで覺えし母國語の母音五つも柩ふかく納めぬ   (同人誌『メトード』第6号)
母國亡ぶる季節、晩夏の水族館(アカリウム)昏れて心靈のごとし水母(くらげ)は  (水銀傳説)
母國なきは爽やかならむ 炎天に濡れしバナナの皮の黒き斑(ふ)  (日本人靈歌)

トヨタ産業技術記念館。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7

今日のラッキーとアンラッキー。
ラッキーはトヨタ産業技術記念館のミュージアムカフェで食べたカレーが美味しかった事。レストランのランチを行列にあきらめてカフェにしましたが、プレミアムの名どおりに肉がたくさん入っていて満足しました。
アンラッキーは40年使ってきたカメラバッグの肩ひもが切れた事。「マスミ(ますみ商会)」の製品で総皮のお気に入りでした。40年前、高価でなかなか買う決心がつかなかった。買ったとき、「M」のエンブレムが本当にうれしかった。
このバッグを使い始めたころ中平卓馬は時代の寵児でした。中平卓馬の訃報が今日の朝刊にでていました。



ゆくえ知らず

塚本邦雄
今日こそはかへりみなくて刈り拂ふ帝王貝殻細工百本   (汨羅變)
「ノモンハンにうち重なりて斃れしを」 わが心之に向きて蒼き  (波瀾)
秋つばめ紺にうるみてわが歌の數千(すせん)來し方ゆくへを知らず  (されど遊星)

いまさら、さらさらさら、さらに八月にとった写真で。
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LUMIX G 20mm F1.7
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LUMIX G 20mm F1.7

帝王貝細工という花があることをしりませんでした。麦藁菊(ムギワラギク)という花だそうです。 塚本邦雄の歌にたびたび出てきて「?」と思っていました。貝殻はあったりなかったりですが、その違いは今も「?」です。
塚本邦雄はきっと言葉に特別な感覚をもっていたと感じます。それは言葉の音や字の形に対してもあったのではと想像します。昨日の『馬と男をのみ信じつつ潸然(さんぜん)と今日水のうへ行く夏まつり』も馬と男という字の形が似ていると、かの人は思わなかったでしょうか。今日の『今日こそはかへりみなくて刈り拂ふ帝王貝殻細工百本』も縦書きにしたときに『一ノ日本』と読まなかったでしょうか。
「ノモンハンにうち重なりて斃れしを」 は、坪野哲久『ノモンハンにうち重なりて斃れしを日本の兵と豈(あに)いはめやも』(昭和15年)という歌があるそうです。

いつわりて過ぎ

塚本邦雄
いつはりて壯年(さかり)すぎなむ海よりの月は射すわが耳の中まで   (星餐圖)
杏林醫院三階に燈がまたたきてあそこに死後三箇月の生者  (魔王)
はかなきことのひとつにいもうとが聲帶腫るる白露(しらつゆ)の中  (天變の書)
馬と男をのみ信じつつ潸然(さんぜん)と今日水のうへ行く夏まつり  (綠色研究)

いまさらさらさらさらに。
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SUMMILUX 15mm F1.7
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SUMMILUX 15mm F1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

かの日より

塚本邦雄
天國の藍のアルプス夏いかに秋いかに友よ便りをおこせ (新歌枕東西百景 山梨県北巨摩郡長坂町夏秋)
秋風の直擊をうく爆死せしまひるの夢の醒めぎはの額(ぬか)  (黄金律)
よこざまに言葉逸(そ)れつつ灼熱のスープの皿に浮く秋の蝶  (靑き菊の主題)
黑葡萄しづくやみたり敗戰のかの日より幾億のしらつゆ  (魔王)

いまさらさらさら。
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
3-LR5__M524431-3.jpg
NOCTICRON 42.5mm F1.2
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M.ZUIKO 17mm F1.8

大垣水門川の河岸には「芭蕉蛤塚忌(こうちょうき)全国俳句大会」優秀作が銘板になってかざられています。写真の銘板は『最後まで残りし通夜の登山靴』という神奈川県の芳賀秋良さんの歌です。他の銘板の歌も「挽歌」として心に残ります。
「蛤塚忌」の「蛤塚(はまぐりづか)」は、芭蕉が大垣の地で「奥の細道」の旅を結んだことにちなんで、「奥の細道」文末の、
蛤のふたみに別行秋ぞ
の句を碑にして昭和32年にこの地に建立されたものだそうです。

憂きわれ

塚本邦雄
夏終るべし夜の水に沒しつつある形代(かたしろ)のするどき肩  (波瀾)
憂きわれをさびしがらせて後架よりひびき來る吊り捨ての風鈴  (黄金律)
人に觸れず夏を閱(けみ)せり今朝水の上に身をあやまちし蜩(かなかな)  (靑き菊の主題)

いまさらさらに。
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NOKTON 25mm F0.95
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キヤノン7用 CANON 50mm f0.95
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キヤノン7用 CANON 50mm f0.95

キヤノン7用 CANON 50mm f0.95は親しかった知人から頂きました。わたしが写真好きでカメラ好きだから、と。
ご家族のお一人の遺品と言われました。お金で購うことは失礼になると思い、かわりに、わたしも祖父の遺品の刀剣類をお渡ししました。
山の好きな人でした。レンズはきれいに手入れされていましたが、前縁に歪みがあります。だからフィルターやフードがきちんとつきません。山登りの途中で岩にでもぶつけたのかもしれません。そうであったらいいなあ、と思います。山好きで元気だったころを思い出しますから。
レンズは、0.95の開放でも十分にシャープです。わずかにフレアがでますが、NOKTONよりもフレアは少ないと感じます。フードをつけないのでゴーストは派手にでます。3枚目の写真のように。