よろこびの窓をよぎり

塚本邦雄
食卓に霧たちこめつ肉欲の核秘めしくろきくるみを割るも   (綠色研究)
けふの陽のまた昇るなる諦めとよろこびの窓をよぎりゆく雲   (歌誌『靑樫』四号 L氏のための二十行詩)

揚輝荘。
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天窓 KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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二階への吹抜け KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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玄関 KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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食堂 KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

きのう今日の塚本邦雄の歌は、
第五歌集「緑色研究」(1965年)の中の『国王Lと哲学者Nによせる脚韻二十行詩』と
同人誌「青樫」四号(1951年)の中の『L氏のための二十行詩』から引用しました。
この二者の間にはよく似た歌がふくまれています。
 こばみあふ心と肉よ一まいの彩硝子火のいろあせゆきぬ (綠色研究)
 しのびよる御手と夕やみ、朱き繪の硝子窓いま色あせゆきぬ (靑樫四号)
 食卓に霧たちこめつ肉欲の核秘めしくろきくるみを割るも (綠色研究)
 食卓にたちこめる霧、ちちははにかくれてきみと胡桃を割るも (靑樫四号)
Lはルートヴィヒ、Nはニーチェだそうです。

いろあせゆき

塚本邦雄
こばみあふ心と肉よ一まいの彩硝子火のいろあせゆきぬ   (綠色研究)
棘のあることばは胸に廃園のあふるるいづみふたりして浴み   (歌誌『靑樫』四号 L氏のための二十行詩)

なお残り物の茶臼山高原で。
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

泣きたくなるほどひそか

塚本邦雄
山巓にすれちがひたる黑人の美髯(びぜん)おそるべき夏がはじまる   (天變の書)
桐の花咲きおくれたり膵臓のありか泣きたくなるほどひそか   (不變律)

茶臼山高原の残り物でお茶を濁すことに。
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

きのうの『あはれみをわれにあたへて羅馬皇帝(カエサル)のごと人去れり 雨降る干潟』は、
塚本邦雄の昭和31年出版の第二歌集「装飾樂句」(カデンツァ)の一首ですが、
私には、この歌と昭和天皇巡行が重なって見えてしまいます。
その巡行は昭和22年の鳥取、島根、広島、岡山の巡行で、このとき天皇は原爆ドームを望む壇上に立っています。
塚本邦雄は、このころ尾道、三原、広島で居住、勤務していました。
昭和22年巡行を歌った彼の同人たちの歌はGHQの検閲ですべて削除されたそうです。
その同人誌に塚本は属していましたが、巡行の歌はないそうです。
わたしは、昭和22年の彼を想像するのです。

あはれみをあたへて

塚本邦雄
あはれみをわれにあたへて羅馬皇帝(カエサル)のごと人去れり 雨降る干潟   (装飾樂句)
硫黄もて焼かれしソドム、曖曖と若者の耳ふかき蝸牛管(くわぎうくわん)   (水銀傳説)

揚輝荘。
「曖曖」が分からず、調べたら「薄暗い、はっきりしない、よく見えない、隠れる、」云々とありました。知らないことが多いです。
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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NOKTON 25mm F0.95
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

明日の密会場所

塚本邦雄
宰相が明日の密會場所を掌(て)の渦にうらなひ喰ふアスペルジュ   (水葬物語)

揚輝荘。
名古屋へ買物に行ったついでの小一時間でした。
アスペルジュが分からなくて、wikiで検索して初めてアスパラガスと知りました。
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NOKTON 25mm F0.95
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

ちえぞはかなき

塚本邦雄
智慧ぞはかなき落成式をはためける萬國旗チリの旗が欠けをり   (風雅)

旧三河鉄道西中金駅付近。
廃線跡が、レールの頭だけ残して砂利を敷き詰め、遊歩道として整備されています。
線路のえん堤が黄色い花で埋め尽くされていて、歩いてみたいと思いました。
いつも撮影にさそってくれる年上の友人が、同じときに撮った写真をブログ(ASA100 感ずるままに)に載せています。
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8
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M.ZUIKO 17mm F1.8

きのうの『『親和力』閉ぢてたかぶりつつあるに「名古屋名產の外郎(うゐらう)はいかが」』はよく分かりません。
ただ、サミットで会場となる賢島が封鎖されるなかでG7の協調外交が展開される状況に、
この歌の前半が面白いように符合したので引用しました。
なお個人的には、塚本邦雄の歌の中で使われる”ルビ”には何か意味があるのか気になります。
他に読みようのない漢字にルビをふる一方で、読みにくい字にルビがないのです。
そして、このルビ付き漢字に作者は別のイメージを重ねているのではないか、と感じる時があるのです。
きのうの「外郎」も、作者は「げろう」というイメージを重ねているのではないか、と感じるのです。
もちろんこの字を「げろう」とは読みませんが。

閉ぢてたかぶりつつ

塚本邦雄
『親和力』閉ぢてたかぶりつつあるに「名古屋名產の外郎(うゐらう)はいかが」   (黄金律)

茶臼山高原。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

きのうの塚本邦雄『神風の伊勢にしあればちちのみの父の訃(ふ)に身も冥(くら)みゆくかな』は、
源氏物語の「賢木」の巻によせたものですが、この巻にでてくる斎宮の心情を歌っています。
斎宮となった皇女は、父の天皇が亡くなれば任を解かれて京へ帰れるのですが、
帰ったところで父はもういないのです。
斎宮は任命されて伊勢へ向かう時と、任をとかれて京へ帰る時では異なる道筋を通ったそうです。
「ちちのみの」は父にかかる枕詞だそうで、「乳の実」(イチョウの実ともイチジクの実とも)だそうです。
無知なわたしはてっきり「乳飲み」と思っていました。助平な根性が表れて赤面ものです。

くらみゆく

塚本邦雄
神風の伊勢にしあればちちのみの父の訃(ふ)に身も冥(くら)みゆくかな   (源氏五十四帖題詠)

茶臼山高原。
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

きのうの『萬國旗つくりのねむい饒舌がつなぐ戰(いくさ)と平和と危機と』は
塚本邦雄の第一歌集「水葬物語」(1951年 昭和26年)所収ですが、
その2年前の1949年10月に発行された同人誌「メトード」第三号に、
『萬國旗造りのながいお喋りがつづる平和といくさの會議』という歌があるそうです。
1949年4月までに国際連合やNATOがつくられていますが、8月にはソヴィエト連邦が核実験に成功し、10月には中華人民共和国が成立、そして1950年6月には朝鮮戦争が勃発しています。 
「会議」を「危機」とかえた焦燥感が理解できるような気がします。

饒舌がつなぐ

塚本邦雄
萬國旗つくりのねむい饒舌がつなぐ戰(いくさ)と平和と危機と   (水葬物語)

茶臼山高原。
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8

きのうの『蒸海膽(むしうに)のあけぼのいろの甘しあまし先進國主腦會議の腦』は、
脳とウニのイメージを重ねて不気味ですが、
塚本邦雄は、
会議に出席する各国指導者を批判しているわけではないと思えます。
同じ歌集に、
『空井戸の蓋の鋼に露むすびまなこきらきらしきゴルバチョフ』という歌があるのですが、
そこには共感があっても反感はないと感じるからです。
いっぽうで、塚本邦雄は
言葉や文字へは鋭い批判精神を発揮するようです。
たとえば「汨羅變」という歌集には、
『焼夷彈の夷とはなになりしか二月銀杏煎りつづけ鬱ふかし』という歌があります。
ですから、
彼は「先進国主脳会議」という言葉に引かかっているのではないかと思えるのです。
「先進国主脳会議などと世界最高の知識が一点に集まるような会議名などつけるな。
このウニの美味さといったら正に海のキモという言葉にふさわしい美味だけど、
主脳会議という名にふさわしい脳があるというのか」と。

あけぼのいろの甘

塚本邦雄
蒸海膽(むしうに)のあけぼのいろの甘しあまし先進國主腦會議の腦   (波瀾)

茶臼山高原。
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Zuiko ED 8mm F3.5 Fisheye
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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Zuiko ED 8mm F3.5 Fisheye
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M.ZUIKO 75mm F1.8

きょうの塚本邦雄の歌は、わたしが住んでいる三重県で「伊勢志摩サミット」が開催されることにちなんで選びました。
この歌をふくむ『波瀾』は1989年、彼が69歳のときの歌集だそうです。

きらめくものある五月

塚本邦雄
天にきらめくものある五月の夜々にして女身にわれはふれゆかむとす   (初學歴然)
飼殺しの緋鯉三尾に鸚鵡二羽その他に總領が一頭   (風雅黙示録)

茶臼山高原で昨日撮ったシバザクラです。
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Zuiko ED 8mm F3.5 Fisheye
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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M.ZUIKO 75mm F1.8

きょうの『飼殺しの緋鯉三尾に鸚鵡二羽その他に總領が一頭』
もきっと作者の日常生活に緋鯉と鸚鵡を配しただけかもしれませんが、
読む者は勝手に妄想を膨らませてしまいます。
緋鯉のHが3つ、鸚鵡のOが2つ、総領のSが1つを
それぞれ横に並べて3行にすると
ヒトの顔になります。
作者自身の肖像を戯画化したのかしらと妄想を膨らませるのです。

光の澪(みを)に

塚本邦雄
柹若葉(かきわかば)匂う夜の街縦横の光の澪(みを)にきらめく「川鱒(ルーチエ)」   (マツダの広告より)

茶臼山高原(北設楽郡豊根村)。
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

無駄だらけの

塚本邦雄
綠蔭にをととひわれが仕上げたる一脚の無駄釘だらけの椅子   (黄金律)

田峯小学校。
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LUMIX G 20mm f1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2
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LUMIX G 20mm f1.7
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NOCTICRON 42.5mm F1.2

日日あり

塚本邦雄
栃の花雨夜ににほひ大伯父の玩具蒐集癖死ぬるまで   (豹變)
人刺すすべ教へられつつ少年の日日ありきけぶりたつ松の花   ( 〃 )

四谷千枚田。
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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NOKTON 25mm F0.95
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M.ZUIKO 75mm F1.8

きのうの塚本邦雄の『初夏愕然として心にはわが祖國すでに無し。このおびただしき蛾』を読んだとき、
『わが』の位置に違和感がありました。
わが心に祖国なし、というのが普通じゃないかと感じます。

わが祖国が心にない、というときこの心は誰の心でしょうか。
塚本邦雄はたぶん日常風景を読んだだけでしょうが、勝手に深読みすると

かつて世界の中心にあると教えられたわが祖国は、五月になって、連合国に敗れてなくなってしまった。誘蛾灯に集まる蛾のように人々をひきつけてきた祖国も、誘蛾灯と同様に、その中心は光という、実態を持たないものが満ちた空白だった。

ナチスが降伏したのは五月八日でした。

くくる五月

塚本邦雄
チェロの絃(げん)もて括る五月のからたちの葎(むぐら)、不安なる結實のまへ   (日本人靈歌)
初夏愕然として心にはわが祖國すでに無し。このおびただしき蛾   ( 〃 )

棚田が続いたので目先を変えて愛知県北設楽郡設楽町の田峯という里へ。
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M.ZUIKO 75mm F1.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8
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Pentax FAソフト28mmF2.8

田峯は「だみね」と濁音で読むそうです。
ダミネときくと外国の名前のように感じましたが、
以前は「田峯森林鉄道」というのも走っていた林業のさかんな土地だったようです。
柿の花も咲いてました。